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プロジェクトについて

多元的なリスクをめぐる個と共同性に関する学際的研究 ―移民・難民・災害避難民を軸に

外国人の流入と定着化がますます進む日本社会において、多文化共生のための政策整備とその実践は喫緊の課題となっています。その一方で、阪神・淡路大震災や東日本大震災以後、高齢化と人口流出や産業の衰退などが相互に影響しあい、コミュニティの弱体化や災害脆弱性が指摘されています。
 本研究会では、こうした状況の中、①これまで海外で調査してきたフィールドワークの知見をいかし、「災害への備え」をキーワードに、多様化する日本における海外からの移民の課題とニーズを引き出していくこと、②日常と災害時といった「もしも」の事態において、外国人と地域住民が互いを知り、自助・共助を生み出していくシクミを共に考えていくことを目指しています。
 こうした知見を地域研究者、人類学者と防災研究者のみならず、NPO等の市民団体と共有し、防災と日常をシームレスにつなげ、多様性を包摂した持続可能なセーフティネットとあらたなコミュニティの在り方について研究を進めています。

「つながり」の構築が力となるリスクへの対処

今日、私たちは様々なリスクに向き合いながら暮らしています。実際、地震、台風、河川の氾濫、崖崩れといった従来からの自然災害のみならず、グローバル化による新たな感染症の流行-直近では新型コロナウイルスによる感染拡大-といった人為的災害など、多様な災害に見舞われる危険性が常態化しています。しかも、大きな人為的環境破壊をも引き起こす災害は、個人として対処できる規模を遙かに超え、コミュニティとしてだけではなく、地方・中央政府として対処しなければならなく、社会的不平等を増大させる被害からの復興に対する国家の支援も不可欠となっています。
 一方、東日本大震災に被災した地域で、コミュニティとしてのまとまりが強く維持されていた町や村では復興が早く進んだといわれてきました。また、1年以上におよぶ新型コロナの感染拡大では、地方・中央政府一丸となって「密な接触回避」が叫ばれ、経済支援が行われるなか、インターネットを駆使した新たな「つながり」の形も生み出されてきています。平時における「つながり」の共同性は災害時の対処に大きな力になることや、「つながり」への希求は消え去ることはないことが分かります。
 人類学の研究は、人間社会が社会生態的条件に合わせながら、互いの信頼性を作りあげる有機的・機能的装置となる顔と顔を合わす場や機会を設け、家族、親族、地域といった様々なレベルでの「つながり」を構築してきたことを示してきました。互酬性に根ざし、互いに次世代をも見守りあう家族を越える「つながり」の共同性は、互いの信頼を育み、安心できる暮しへの出発点となります。また、ナオミ・ザック(2020:43)が『災害の倫理』のなかで示唆するように、家族を越える共同性を平時から構築しておくことは、「連帯」、「協働性」、「利他性」が核となる倫理的・道徳的価値の共有を育み、災害への技術的対処を補完し、そこからの復興への近道になるといえるでしょう。

山田 孝子

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